2022年11月25日金曜日

夢屋

半分ブルーシートで覆われた、決して綺麗とは言えない屋台が、明治通りにポツンとある。

その暖簾をくぐる。
マスクをしているせいでもあるが一瞬店主は怪訝な表情、しかしすぐ認識してくれたようだ。
瓶ビールをオーダーし、トマトと焼鳥とニラトジをつまむ。

しばらくすると若い男が覗いて「3人いいですか?」と尋ねてきたが、それを見た店主は、「きっとあの客は入ってこない。」とぽつりと言うと、案の定来なかった。

又一人の客が来店し、ちょっとキョロキョロしながらメニューを見ているのを見て、「どっちからですか?」とさりげなく声をかける。
「静岡から。」
私は一見さんだろうとは思ったが、店主は観光客だと一瞬でわかったのだろう。

また一人十数年振りに久留米に来たという客は、あの頃どこそこにこんな店や通りがあったと思うが的な昔話で盛り上がり、熱燗がすすんでいた。

やがてバブル到来という頃、24歳で始めた屋台はもうすぐ40年になるといい、その持続力には脱帽するしかない。
私より10歳年下なのだが、飲食業者としてはほぼ同期、昔の面影そのままにその表情と決して多くはない言葉には、生き抜いてきた確かな自信が感じられる。

久留米市内には、1970年代前後の全盛期の頃には70軒以上の屋台が軒を連ねていた。
それが今では5~6軒になってしまい半世紀で10分の1以下、それどころかここの店主によれば、毎日ちゃんと営業しているのはここ1軒だけではないかともいう。
福岡市でも、屋台の公募抽選をしたり観光資源だ文化だといったニュースも流れてさぞかし流行っているのではという印象があるが、こちらも現在は100軒程度、最盛期には500軒近くあったという。

瓶ビールもう一本、ちろりの熱燗一杯だけ。

それにしても、何て素敵なネーミングなのだろう。
薄汚れた「夢屋」の文字は、色褪せないでしっかりと灯っている。


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