冬隣
もう遅いのはわかっていた
それでも消え去る秋の風情を
見せてあげたいと思った
百弐拾七段のきぼうの坂の石段を前に
赤色と黄色のテープが巻かれた竹の杖弍本を
彼女は躊躇なく手に取った
ゆったりとした足取りなのに
彼女は息を切らし
石段の途中で何度か足を停めた
そぞろ歩きの途中途中でも
椅子やベンチを見かけると
何度か腰をおろした
遠い昔なら
二人はいつまでもどこまでも
歩き続けられたのに
境内には何故か不釣り合いのウエストのうどん屋さんがあって
彼女はごぼう天うどんにかしわのおにぎり
私は具沢山の大興善寺うどんを食べた
食べたかったおしるこは
いくら何でももう入らないねと言った
母に申し訳程度におまんじゅうのお土産を買った
庭園の小さな池のほとりに近づくと
錦鯉がこぞって大きな口をパクつかせるのを見て
彼女は少し笑った
破れた朱色の野点傘の隙間から
辛うじてもみじ葉の紅がのぞいていた
束の間だけど
今日の時はゆったりと流れた
きっと今まで
余りにも多くの慌ただしい時を流させてきたのだ
これからは好きに流して行けばよい
冬隣@大興善寺
0 件のコメント:
コメントを投稿
登録 コメントの投稿 [Atom]
<< ホーム