2023年12月3日日曜日

冬隣

もう遅いのはわかっていた

それでも消え去る秋の風情を
見せてあげたいと思った

百弐拾七段のきぼうの坂の石段を前に
赤色と黄色のテープが巻かれた竹の杖弍本を
彼女は躊躇なく手に取った

ゆったりとした足取りなのに
彼女は息を切らし
石段の途中で何度か足を停めた

そぞろ歩きの途中途中でも
椅子やベンチを見かけると
何度か腰をおろした

遠い昔なら
二人はいつまでもどこまでも
歩き続けられたのに

境内には何故か不釣り合いのウエストのうどん屋さんがあって
彼女はごぼう天うどんにかしわのおにぎり
私は具沢山の大興善寺うどんを食べた
食べたかったおしるこは
いくら何でももう入らないねと言った

母に申し訳程度におまんじゅうのお土産を買った

庭園の小さな池のほとりに近づくと
錦鯉がこぞって大きな口をパクつかせるのを見て
彼女は少し笑った

破れた朱色の野点傘の隙間から
辛うじてもみじ葉の紅がのぞいていた

束の間だけど
今日の時はゆったりと流れた
きっと今まで
余りにも多くの慌ただしい時を流させてきたのだ

これからは好きに流して行けばよい

冬隣@大興善寺


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