七夕神社
筑後地方再発見シリーズ「七夕神社」。
七夕神社の境内には、夕暮れの風が静かに吹いていた。
男は、境内の短冊を眺めながら、ふと一枚の文字に目を留めた。
――「もう一度、誰かに恋をしてみたい」
達筆ではなく、むしろ少し幼なく見える字だった。
♀「ずいぶん大胆なお願いですね」
振り返ると、一人の女が立っていた。
三十代後半だろうか、黒いブラウスに長いスカート。
♀「あなたが書かれたんですか?」
♂「まさか」
♀「でも……ちょっと羨ましいとは思います」
♂「何が?」
♀「歳をとっても、恋をしたいと思えることが」
男は苦笑した。
♂「歳を取ると、もう恋をしてはいけませんよね、笑われます」
♀「… 私は笑いませんよ」
二人は神社を出て、宝満川のほとりまで歩いた。
川面には夕暮れの光が細長く伸びていた。
♀「この川が天の川なんですね」
♂「織姫と彦星は、一年に一度しか会えない」
男は川の向こうを見た。
♂「一年に一度でも、会いたいと思える相手がいるなら、それは幸せなのかもしれない」
♀「でもちょっと寂しいですね」
神社へ戻る坂道で、歩く速度が少しだけ遅くなり、肩と肩の距離が近くなっていた。
♀「来年も、ここに来られますか?」
♂「……来年じゃなくて……来月でも」
♂「……明日でもいい?」
女は少しだけ目を伏せて、そして小さく頷いた。
今宵二人の間を流れていた天の川、
明日からは二人の前を優しくゆったりと流れることになる。
生まれ故郷に、「七夕神社」があって、ちょっと有名。
きっと幼いころに来たことはあるのだろうが、とんと記憶にない。
ここは「恋人の聖地」にも指定されていて、全国のプロポーズにふさわしいロマンチックな場所として認定されている。
妄想でも、少しときめいた方が長生きと活力の源泉だそうなので、この物語を貴方に贈ります。
七夕神社@福岡県小郡市


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